2010.10.03記

終盤の駒の詰め込み

ここでいう終盤とは解き手にとっての序盤のことです。非常に紛らわしいので、創作における終盤のことを「創作終盤」と呼ぶことにします。よほど技量に優れた創り手でない限り、煙詰における創作終盤とはスペースと残り枚数との戦いです。難度の高い条件を含むような煙詰の場合には特にそうです。 創作終盤においては将来の逆算の可能性などを考える必要はありません。この点は作家にとっては救いであるといえます。しかし、残った駒を限られたスペースに入れることは依然として容易ではありません。使いづらい駒ばかりが余ってしまった場合には尚更です。
ちなみに個人的には━おそらくは一般的にも━創作終盤においては歩が余りやすいといえます。しかしながら、歩は、歩とと金の2種類の機能として使えるので、創作終盤においては消費しやすい駒です。これがもし銀桂香ばかりだと、これらの成駒を使うことに抵抗がある場合には、逆算が難しくなる場合があります。もちろん、成香だろうが成桂だろうがとにかく配置すればいいという考え方もあるとは思いますが。
さて本項では、この創作終盤の駒の入れ方にこれまでに述べたテクニックが使えることを発見しましたので、例を挙げて紹介したいと思います。
添川公司氏作「雷鳥」、近代将棋2004年4月号、131手詰
添川公司「雷鳥」、近代将棋04年4月号、131手詰
図は44手目△32同玉まで
上図は添川公司氏「雷鳥」の44手目の局面です。この局面において、後手の持駒が13枚(内訳は歩10金1桂1香1)で、先手の持駒が歩2枚。つまり、作家の立場からいうと、あと15枚の駒(歩12金1桂1香1)を配置しなければならないという状況です。使えるスペースは右上しか残されておらず「創作終盤」といってよい局面を迎えています。
自分が最初にこの局面を見たときには、あと15枚の駒を配置することは不可能だと思いました。スペースが足りないように思えるのです。しかし、細やかな駒操りを実現する逆算によって巧みに駒が配置されてゆきます。
図は8手目△22同玉まで図は4手目22同玉まで
かなり進んで左図のようになりました。飛び道具、飛び道具に取られる駒、大駒などが遠くに配置されていて、限られたスペースが有効に利用されているのがわかります(金銀桂歩は基本的に右上に配置するしかないので)。 さて、ここから更に4手逆算したのが右図です。左図と右図を見比べると、相違点は2四歩の有無だけ。そう、これは先述の「自力型邪魔駒消去」なのでです。意味付けもまたシャレています。結論をいうと、2四歩を消去するのは、のちに2二歩と打つため。つまり2歩禁を予め避けているというワケです。もちろん2四歩を消去可能なのはこの瞬間だけ。
このように、高度なテクニックも駆使しつつ、見事に全ての駒が入りました。(冒頭の初形図参照)
このような例を見ていると、単純な力技に見える創作終盤の駒配置にも工夫の余地があることに気付かされます。なお、本作では「自力型邪魔駒消去」が別の場所でも用いられています。どこでしょうか?
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