10.09.27記

勢力圏の遷移

いわゆる全駒煙詰では、30枚以上の駒を消去しなければなりません。30枚以上の駒を消去するためには、必然的に盤面全体を使用する必要があります。つまり詰方は、受方玉が盤上を遷移していく過程で全ての駒を消去する必要があるわけです。 ところで、攻防の拠点が徐々に移動していく要因としては、詰方の大駒の移動によるところが大きいです。攻防の過程で大駒が移動することによって、全体の勢力構成が変わり、次の攻防へと移行する。これは大駒によって玉を一定の方向に押さえつけていくようなイメージですね。 ・・・と、順方向(解き手の立場)で考えてみると話は簡単そうに思えます。でも、煙詰の創作が難しいところはこの論理を逆算で構成しなければならないことなのです。当然といえば当然ですが。しかも、枚数の制約があるために、作者には「効率の良い配置」が求められます。なお、ここでは「効率の良い」という言葉を、「早く駒を消費できる」という意味で用います。

配置の任意性

今後の説明のために、配置の任意性という言葉を導入してみます。 一般に、詰将棋の配置には任意性が存在します。例えば、左図のような素材を持っていたとします。今回創りたい作品が煙詰であると仮定するとき、43の駒はと金である必然性はあるでしょうか?―と金と同等の動きができる駒(金や成香、成桂、成銀)で代用できるという自明な答えはさておくとしても―答えは勿論「いいえ」です。駒の機能に着目してみると、4三のと金は余詰が生じない範囲で3二へ利きを持つ駒で代用できます。たとえば、4三と→2四桂とすることはできませんが、4三と→4三銀とすることは可能です。 煙詰の創作においては、この「任意性の部分を調整することによって逆算の可能性を変更する」という技術は非常に有用です。例として挙げた左図と右図を見比べてみると、右図では、左図ではできなかった▲3四と△2二玉という逆算ができるようになっていることがわかります。


なおこの技術は、短編において配置駒数を少なくしたいときなどにも応用できます。任意性の全組み合わせを列挙して、使用駒数が最小となる組み合わせを選べばよい、というわけです。 なおこの技術がコンピュータによる詰将棋の逆算に応用できるかどうかは定かではありません。
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